-内視鏡装置開発の歴史-
“消化管の中を直接見てみたい”医療者のこのような思いが内視鏡装置開発の始まりでした。
1805年にドイツ人のフィリップ・ボッチーニという人物が開発した“リヒトライター”といわれる器具が内視鏡の原型とされ、当時はこれを用いて尿道や直腸、咽頭を観察したという記録が残されていますが、現在の内視鏡装置とは似ても似つかないものでした。 一方、日本においては1949年に東京大学分院外科の宇治達郎先生らと現在のオリンパス株式会社の共同開発によって内視鏡の試作機が作られました。この時の装置の呼称がガストロ(胃)カメラであり、現在でも日本においては上部消化管内視鏡装置が胃カメラと呼ばれている所以です。その後、医師と技術者の間で様々な改良が行われ、1964年頃にはファイバースコープ付き胃カメラが登場し、1983年頃に開発された電子スコープが現在にいたっており、その技術は飛躍的に進歩しています。そして、2000年頃からはカプセル内視鏡の開発が行われ実用化に至っています。
-内視鏡検査の実際-
さて、上部消化管内視鏡の検査方法について、お話ししましょう。 内視鏡を挿入する経路には大きく2通りあります。最も一般的なのは、口から挿入する方法です。この方法で挿入する内視鏡の多くは直径が9mmほどあります。内視鏡が喉元を通過するときにオエッと吐きそうになった経験をお持ちの方も多いでしょう。そのため、内視鏡は辛く苦しい検査だから、出来るだけ受けたくないというのがほとんどの患者さんの考えではないでしょうか。しかし、近年では鎮静剤という眠気を誘う薬剤を注射することで、検査中の記憶がほとんどないままに実施できるようになりました。手術の時に使用する全身麻酔薬とは違いますので、完全に寝てしまうことはできませんが、多くの患者さんが検査後に非常に楽であったとおっしゃいます。当院の消化器内科では、全国に先駆けて早い時期から積極的にこの鎮静剤使用に注目して、その安全性を評価し、いろいろな学会で報告しつつ、内視鏡検査のガイドラインにもデータを発表してきました。患者さんに、できるだけ苦痛が少なく楽な内視鏡検査を受けていただけるように心がけています。 もう一つの挿入経路として鼻があります。覚醒した状態でも苦痛を和らげることができないかといった考えから、直径が5mm~5.4mmといった非常に細い内視鏡が開発されました。
(図1)この内視鏡を鼻から挿入することによって口から挿入する時に出現しやすい吐き気の反射を軽くできるようになりました。近年では、人間ドックや胃がん内視鏡検診に多く用いられています。鼻から挿入する内視鏡は、患者さんの苦痛を軽くするという点で非常に有用ですが、その反面デメリットもないわけではありません。鼻からの内視鏡検査の利点や欠点を挙げてみました(図2、表1)。患者さん一人ひとり毎に検査の目的はすべて異なります。したがって、私たち内視鏡医は患者さんの状態、状況に応じて内視鏡の種類を選び検査を行うよう努めています。
さて、内視鏡のもう一つの進歩にカプセル内視鏡(図3)の開発があります。カプセル内視鏡は、皆さんが普通に服用する薬のカプセルを一回りほど大きくした程度の大きさです。飲み方は普通の薬を水でゴクンと飲み込むことと大差はありません。一回きりの使い捨てで便と一緒に排出されたら検査終了です。 カプセル内視鏡の適応は、原因不明の消化管出血が疑われる場合です。
食道・胃・十二指腸・大腸を内視鏡で検査したにも拘わらず出血の原因が見つからず、小腸に何か原因がありそうな場合に用います。小腸は全長6~7mもあり、かつて医療の現場では暗黒大陸とも言われていて、通常の内視鏡では十分に観察できない場所でした。しかし、カプセル内視鏡が開発され、直接小腸の中を見て写真をとることが可能となりました。また、特殊な腸の炎症(クローン病)にも保険が使えるようになりました。
この内視鏡検査はカプセルを飲み込むだけで楽だから、取り敢えず胃腸を全部みておこうという目的では残念ながら今のところ使用することはできません。しかし、食道、胃、大腸観察用のカプセル内視鏡も開発されていますし、将来的には組織の採取を可能にしたり、薬を播くことができるカプセル内視鏡も実用化されようとしています。この内視鏡を用いて、人間ドックなどで胃腸の病気を無自覚、無症状の状態で数多く発見できる日がいずれやってくるかもしれません。
今回取りあげたように、内視鏡装置やその技術は日々進歩を続けています。これからも多くの患者さんの消化器疾患を早期に発見し、適切な治療を施すことに貢献していくことでしょう。
藤田医科大学ばんたね病院 消化器内科
小林 隆